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浦和地方裁判所 昭和52年(行ウ)2号 判決 1981年2月18日

原告 首都圏開発株式会社

被告 越谷市長

主文

一  被告が原告に対し昭和五一年一〇月五日付でした特別土地保有税の不申告決定処分を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五一年一〇月五日付で原告に対し、別紙目録の土地(以下「本件土地」という。)の取得につき、左記の各事項が記載された主文第一項掲記の決定(以下、「本件決定」という。)をし、右決定は、同日付で原告に通知された。

取得年月日   昭和四九年四月一三日

取得事由    売買

税額      一〇五六万三八四〇円

不申告加算金額 一〇五万六三〇〇円

決定理由    未申告のため

2  原告は、本件決定を不服として、昭和五一年一一月六日、被告に対し、異議申立をしたが、被告は、同月二九日、右異議申立を棄却する旨の決定をした。

3  しかし、本件決定は、次に述べるとおり違法であるから、取り消されるべきである。

原告は、本件土地につき、昭和四七年九月六日、蒲生住宅建設株式会社及び日東商事株式会社(以下、「蒲生住宅ら」という。)から所有権の移転を受け、同年一二月二三日、東武鉄道株式会社(以下、「東武鉄道」という。)に対し、所有権を移転した。

ところで、土地の取得に対して課される特別土地保有税は、昭和四八年七月一日以後の取得分から課税される(地方税法の一部を改正する法律(昭和四八年法律第二三号)附則一三条)ところ、原告が本件土地を取得したのは同年一月一日前であるから、特別土地保有税の課税対象とはならない。

したがつて、本件土地の取得時期を誤認して課税した本件決定は違法である。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、2の事実を認める。

2  同3の事実のうち、原告が本件土地につき蒲生住宅らから所有権の移転を受け、その後東武鉄道に対し所有権を移転したこと及び土地の取得に対する特別土地保有税が昭和四八年七月一日以後の取得分から課されることは認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

1(一)  地方税法五八五条一項は「特別土地保有税は、土地又はその取得に対し、………当該土地の所有者又は取得者に課する。」と規定するのみで、取得の意義、取得の時期等については何ら明らかにしていない。したがつて、その解釈基準については、税務課税上の立場から独自に決定する必要があり、特別土地保有税の立法目的、課税の公平、正確性及び担税力等との調和をいかにしてはかるかを総合的に考慮して定めるべきであり、意思主義を基底とする私人間の法律関係とは必ずしも合致するものとは限らない。

そして、特別土地保有税は、昭和四六年以降の超金融緩和を背景に法人等の土地の投機的取得が顕著となり、全国的な地価の暴騰を引き起こしたため、この抑制を狙いとし、併せて土地の有効な供給を促進するため、個人の長期譲渡所得の分離課税制度を補うという政策目的から、重課される補完税であるという点からみると、取得に関しては、より明白な基準を必要とする。そうすると、取得及びその時期は、目的財産を譲り受けた者に当該財産の所有権が確定的に帰属し、譲受人が当該財産に対し現実的に支配力を及ぼすに至つた状態をいうものと解するのが右の目的に適した合理的かつ妥当な解釈である。

(二)  これを本件について検討する。

原告は、昭和四七年七月七日、蒲生住宅らとの間に、本件土地につき売買契約を締結した(以下、「本件売買契約」という。)が、その際作成された土地売買契約書(以下、「本件売買契約書」という。)には、「所有権移転の際、甲(蒲生住宅ら、以下同じ。)は上物を除去し更地として乙(原告、以下同じ。)に引渡すものとする。」との特約条項がある。そして、本件土地上には、当時、(イ) 東京機工株式会社所有の建物(工場、作業所、事務所及び寄宿舎)、(ロ) 藤田高所有に係る賃借人越谷自工株式会社の工場、(ハ) 藤田高所有に係る賃借人信和工業株式会社の工場、事務所が存在していたが、(イ)の建物については昭和四九年二月一五日に収去され、また、同年三月二三日賃借権が放棄され、(ロ)の建物については同年一月末ごろに収去され、(ハ)の建物については同年四月上旬に収去された。

また、本件土地につき所有権移転登記(蒲生住宅らから東武鉄道に対する中間省略登記)が経由されたのは昭和四九年三月二九日であり、蒲生住宅らと原告間において代金が完済されたのは同年四月一三日である。

このように、特約条項に基づいて、上物の大部分が除去され、所有権移転登記が経由されたときにはじめて、本件土地の所有権が原告に確定的に帰属したのみならず、原告が本件土地に対し現実的に支配力を及ぼすに至つたものというべきであるから、原告の本件土地の取得時期は、昭和四九年三月二九日と解するのが相当である。

2  仮りに、「土地の取得」の意義を税務課税上の独自の概念としてとらえることが許されないとしても、次のとおり主張する。

(一) 私法上の「土地所有権の取得」の時期は、売主所有の特定物売買のように契約当初から所有権移転可能な状態にある場合には契約成立時であり、当事者が特に取得の時期を定めたときにはその特約の趣旨によるものであるが、本件売買契約においては、左の各事実を総合して、所有権移転(取得)の時期を所有権移転登記(中間省略登記も可)の時(同時に代金を完済し、また、本件土地上の建物を収去し、賃借権を消滅させて引渡す。)とする旨の特約が存在したものと認定するのが合理的である。

(1) 本件売買契約書には、第九条に「本件土地にかかる固定資産税及び都市計画税その他の租税公課については、本契約に伴う本件土地に関する所有権移転登記の日をもつてこれを区分し、その期日前の期間に相応する分は甲がこれを負担し、その期日以降の期間に相応する分は乙がこれを負担する。」、第二条に「乙は、前条の譲渡価格の金員を次の各号により甲に支払う。1 本契約締結の日に内金として、一金三〇〇〇万円也、2 昭和四七年七月末日までに中間金として、一金一億円也、3 昭和四七年八月末日までに第二回中間金として、一金一億円也、4 所有権移転登記時に残金として、一金二億二二八三万三五〇〇円也。第五条後段に「甲は乙が土地代金を完済したときは、直ちに本件土地につき乙又は乙の指定する第三者への所有権移転登記に関する登記義務者としての登記手続を行うことを約諾する。」、第六条に「甲は、本件土地を抵当権、賃借権その他所有権の完全な行使を阻害する第三者の権利瑕疵及び負担のない完全なものとして、乙に引渡さなければならない。」、特約事項第二条に「所有権移転の際甲は上物を除去し更地として乙に引渡すものとする。」との各条項が規定されている。

(2) 一般に、不動産取引では所有権移転時期を所有権移転登記の時(同時に代金完済の時)としている。

(3) 原告は、土地転売を主たる目的として設立された会社であり、原告代表者には、上物が除去されない限り本件土地を取得する意思がなかつた。

(4) 特約事項第二条は、原告代表者の要望で規定された。

(二) そして、前記のとおり、本件土地につき所有権移転登記が経由されたのは昭和四九年三月二九日であるから、原告が本件土地の所有権を取得した時期は同日となる。

3  したがつて、原告の本件土地の取得は、地方税法の一部を改正する法律(昭和四八年法律第二三号)附則一三条で定める「昭和四八年七月一日以降の土地の取得」に該当することは明らかであり、また、特別土地保有(取得)税は、いわゆる流通税であり、土地所有権の取得事実自体を課税物件とするから、たとえ本件のように所有期間が時間的に短かく、予めその処分が約定されていても、所有権移転の事実がある限り、これに課税しうるのである。

4  よつて、被告がした本件決定には原告主張の瑕疵が存在せず、適法なものである。

5  なお、本件土地について、昭和四七年九月六日、原告のために、所有権移転仮登記が経由されている。

しかし、このような条件不備の仮登記は、不動産に関する権利変動の本登記をすべき実体上の権利変動が生じているが、本登記の申請に必要な手続上の要件が具備していない場合にできるものであるところ、前記の本件売買契約書特約事項第二条によつて、右仮登記の時点においては、本件土地に関する権利変動は生じていないから、権利変動の本登記をすることはできない本件は、所有権移転請求権保全の仮登記をすべきであるのに、誤つて条件不備の仮登記をしたものというべく、この場合において、右仮登記には、順位保全の効力が認められるにすぎない。

また、本件売買契約書第五条前段には、本件土地の所有権移転仮登記申請について、契約日以後四か月を経過した日までにこれを行う旨規定されているが、それは、代金の支払を条件にするわけでもなく、転売を業とする商人の便宜を図つた条項であつて、売買物件の所有権の移転とは全く関連を有していない。

四  被告の主張に対する答弁及び原告の反論

(答弁)

1 被告の主張1(二)の事実のうち、原告が昭和四七年七月七日蒲生住宅らとの間に本件売買契約を締結したこと、本件売買契約書に被告主張の各条項が規定されていること及び本件土地につき被告主張の所有権移転登記が経由されたことは認めるが、その余は争う。なお、被告主張の地上建物は、昭和四七年中に収去されている。

2 同2(一)の事実のうち、(1)及び(3)の前段は認めるが、被告主張の所有権取得時期に関する特約の存在は否認する。

3 同5の事実のうち、本件土地につき被告主張の仮登記が経由されたこと及び本件売買契約書に被告主張の条項が規定されていることは認めるが、その余は争う。

4 本件売買契約書の各条項の趣旨は次のとおりであつて、いずれも所有権の移転時期について定めたものではない。

(一) 特約事項第二条は、「所有権移転登記(すなわち、本登記)の際、売主は上物を除去し、更地として買主に引渡すものとする。」と記載すべきところ、「登記」の文字が脱落したものである。右条項は、売主の更地としての引渡義務と買主の残代金支払義務とは同時履行の関係にある旨の規定であつて、更地引渡義務を強調したにすぎない。

(二) 第二条の4及び第五条後段は、本登記と残代金の支払とが同時履行の関係にある旨の約定である。

(三) 第六条は、本件土地が、第三者の権利があつたり負担付のものではなく、完全な所有権を有するものとして売買の目的物とされている旨の約定である。

(四) 第九条は、固定資産税等の租税の納付についての約定であり、特約事項第二条により上物を除去し更地として引渡すまでは、本件土地は事実上売主が占有使用している点に着眼して定めたものである。

(原告の反論)

1 原告は、首都圏のうち最も開発の遅れている北部、特に東武鉄道沿線の開発を目的とし、住宅公団、東武鉄道その他民間デベロツパーに対し優良宅地を供給することにより、地域社会に貢献せんとする会社として昭和四七年五月一日設立された。

2 原告が本件売買契約を締結したのは、右目的のために東武鉄道に対し優良宅地を供給することにあつた。

したがつて、本件売買契約書においても、転売目的での売買契約である趣旨を反映させるため、第四条に所有権移転請求権保全仮登記、第五条に所有権移転仮登記について規定し、これによつて、原告の選択において所有権取得時期が決められ、所有権移転請求権保全仮登記と所有権移転仮登記のどちらでもできるようにしたのである。

3 原告は、本件土地につき東武鉄道への転売の見通しがついたので、本件売買代金の半額以上である二億三〇〇〇万円を支払つた段階において、安全を期するため本件土地の所有権取得を思料し、昭和四七年九月六日蒲生住宅らに対し、本件売買契約書第五条に基づく条件不備の仮登記の移転を請求し、その承諾を得たうえ、右仮登記を経由した。

被告は、右仮登記の効力につき請求権保全の仮登記の効力しかない旨主張するが、前記のとおり本件売買契約書第四条に所有権移転請求権保全仮登記条項があり、第五条の仮登記と条項上明確に区別されているから、当事者が請求権保全の仮登記と間違えて所有権移転仮登記をしたということはない。

原告は、特別土地保有税につき、施行前より十分承知しており、昭和四八年七月一日からの取得税課税開始前に本件土地の所有権取得をしなければならないことを検討したうえで、本件売買契約を締結したが、上物の除去を待つていたのでは、本登記がいつできるかわからず、特別土地保有税の対象に該当させられるおそれがあつたので、前記のとおり、条件不備の仮登記により第三者への対抗要件を具備した所有権を取得したのである。

4 そこで原告は、本件土地につき、昭和四七年一一月三〇日、買主東武鉄道との間に、売買代金六億七八〇万七二〇〇円、支払方法・契約締結日一億八二三四万二一六〇円、昭和四八年一月末日限り残金支払との約定で売買契約を締結した。そして、原告は、昭和四七年一二月二〇日中間金として一億二一五六万一四四〇円を領収したのと引換えに、東武鉄道に対し、同月二三日条件不備の仮登記を経由して、本件土地の所有権を移転した。

五  原告の抗弁

1  仮りに、本件売買契約において、被告主張のとおりの特約があつたとしても、右特約は、その後契約当事者間の合意で変更された。すなわち、

原告は、昭和四七年九月六日、蒲生住宅らに対し、本登記は残金と引換えでもよいが、本件土地所有権は即時移転して欲しい旨の申出をし、その承諾を得た。

2  仮りに、そうでないとしても、原告は、昭和四七年九月六日、蒲生住宅らに対し、上物除去義務の履行を猶予したうえで、蒲生住宅らから、占有改定によつて本件土地の引渡を受けた。

六  抗弁に対する答弁及び被告の反論

(答弁)

抗弁事実はいずれも否認する。

(被告の反論)

確かに、売買代金の半額を超える二億三〇〇〇万円は、昭和四七年九月六日の時点において原告によつてすでに支払われていたものの、その残金二億二二八三万三五〇〇円という多額の代金はいまだ未払であつた。このように、多額の代金が支払われていないにもかかわらず、売主たる蒲生住宅らが本件土地の所有権移転を承諾するということは、合理的経済人の意思に照らして極めて不自然というほかなく、不動産取引業界の実情にかんがみ、右のような事実はありえない。すなわち、

売買代金は、売買物件の所有権移転の対価としての意味を持つものであり、売買代金完済と同時に売買物件の所有権を移転する(そのため所有権移転登記を経由する。)というのが、通常考えられる売買当事者双方の合理的な意思であり、売買契約書に定めた合意を根底から覆す重要な内容の新たな合意を締結する必要が生じたならば、通常の商取引においては、その時点でその旨の契約書を作成するものである。本件において、原告の主張する契約当事者間の合意(しかも、当該意思表示をした者を特定すらしていない。)を裏付ける書面が全くないうえ、原告の主張によれば、蒲生住宅らは、原告に対する所有権移転を承諾していながら、所有権移転の本登記ではなく条件不備の仮登記を経由したにすぎない(蒲生住宅らが真実所有権を移転する意思を有していれば、本登記の申請に必要な手続上の要件が具備していないはずはない。)ことからみても、右所有権移転は事実に反するものといわざるをえない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1、2の事実(本件決定及びこれに対する異議申立の経過)及び原告が昭和四七年七月七日蒲生住宅らとの間に本件土地につき売買契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

そして、特別土地保有税は、地方税法の一部を改正する法律(昭和四八年法律第二三号)附則一三条により、取得に対して課されるものにあつては、昭和四八年七月一日以後の取得分から課税されるが、本件の争いは、原告の本件土地取得が同日の前であるかどうかの一点にかかつている。

二  ところで、被告は、地方税法五八五条一項にいう「土地の取得」について、その意義及び時期は、税務課税上の立場から独自に決定する必要があるとして、「………当該財産の所有権が確定的に帰属し、譲受人が当該財産に対し現実的に支配力を及ぼすに至つた状態」と解する旨主張する。

しかし、地方税法において使用される用語は、特に法律自体においてその意義を定め、又は、通常の用語例と異る意義に使用されていることが明らかな場合を除き、原則として通常の用語例にしたがつて使用されているとみるべきであるところ、「土地の取得」については、同法上、通常の用語例と別異に解すべき特別の規定も理由もないから、同法においても、私法上の土地取得の意義において使用していると解するのが相当である。

したがつて、同法五八五条一項にいう「土地の取得」とは、所有権移転の形式によつて土地を取得するすべての場合をいい、被告主張のように、当該土地に対する現実的支配力を有することを要するものとは限らない。

三  そこで、原告が本件土地の所有権を取得した時期について判断する。

本件売買契約書に被告主張の各条項が規定されていること及び本件土地について、昭和四七年九月六日、原告のために所有権移転仮登記が経由され、さらに、昭和四九年三月二九日、蒲生住宅らから東武鉄道に所有権移転登記が経由されたことは、当事者間に争いがなく、これらの事実に成立に争いのない甲第四号証の一から五、乙第一号証、第二号証の一から四、第一四号証、証人谷塚藍造の証言から成立を認める甲第三号証、乙第一五号証、原告代表者本人の供述から成立を認める甲第二号証の二、第五、六号証、弁論の全趣旨から成立を認める乙第九号証、証人谷塚藍造の証言及び右本人の供述を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和四七年五月一日、首都圏のうち開発の遅れている北部、特に東武鉄道沿線の開発を目的とし、住宅公団、東武鉄道その他民間デベロツパーに対し、優良宅地を供給することにより地域社会に貢献せんとする会社として設立された。

(二)  原告は、東武鉄道に対し宅地を供給するため、同年七月七日、蒲生住宅らとの間に、本件土地について蒲生住宅らを売主、原告を買主とする左記の内容の売買契約を締結した。

(1)  代金 四億五二八〇万三五〇〇円

(2)  支払方法

イ 契約時 三〇〇〇万円

ロ 同月末日までに一億円

ハ 同年八月末日までに一億円

ニ 所有権移転登記時に残金二億二二八三万三五〇〇円

(三)  蒲生住宅らは、本件土地について、おそくとも同年七月一四日までに前主から所有権を譲り受け、同月一九日その旨の所有権移転登記を経由した。

(四)  上記のように、原告は、当初より本件土地を他へ転売する目的を有していたため、転売する際に都合のよいように蒲生住宅らの承諾のもとに、本件売買契約においては、不動産業界で一般に使用される所有権移転請求権保全の仮登記に関する規定のほかに、第五条に「本契約に伴う本件土地の所有権移転仮登記申請は、契約日以後四か月を経過した日までにこれを行う」旨規定され、また、特約事項第一条に「第二回中間金支払時点にて仮登記書類一式を甲は乙に手渡すものとする。」と規定された。

(五)  本件売買契約は、本件土地が更地であることを前提としていたが、契約当時、本件土地上には、藤田高、東京機工株式会社所有の建物が存在していたため、原告の要請により、蒲生住宅らが責任を持つてその除去をすることを約束し、その点を明らかにするために、特約事項第二条として「所有権移転の際、甲は上物を除去し更地として乙に引渡すものとする。」の規定が加えられた。

(六)  原告は、前記(二)(2)イからハの各金銭をそれぞれ期限どおり支払つたが、同年九月初め頃、蒲生住宅らに対し、本件売買契約書第五条、特約事項第二条に基づいて、本件土地につき所有権移転の仮登記手続をするよう申し入れ、同月六日、右仮登記を経由した。

(七)  次いで原告は、同年一一月三〇日、東武鉄道との間に、本件土地につき売買契約を締結し、同年一二月二三日、東武鉄道に対し、前項仮登記の移転登記を経由した。

(八)  なお、原告の営業報告においては、本件土地は、同年九月六日仕入れ、同年一二月二三日東武鉄道へ販売したとして会計処理され、他方、蒲生住宅の決算報告においても、本件土地は、同年八月三一日原告へ販売したとして会計処理されている。

(九)  本件土地上の建物の除去に関しては、その所有者との間の紛争の解決に時間を要したが、昭和四九年三月二三日頃までにすべて和解が成立し、建物除去が実現される見通しがついたので、蒲生住宅らは、同月二九日、中間省略によつて直接東武鉄道に対し、本件土地の所有権移転登記を経由した。本件土地上の建物は、同年四月上旬までにすべて収去され、原告は、同月一三日、蒲生住宅らに対し、本件土地の残代金を支払つた。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実から考えると、本件売買契約の当事者間においては、蒲生住宅らが本件土地の所有権を前主から取得し、原告から代金額の半ばを超える二億三〇〇〇万円の支払を受けた後である昭和四七年九月六日、原告のために所有権移転仮登記を経由することによつて、本件土地の所有権を確定的に移転する旨の合意が成立したものと認めるのが相当である。

被告は、本件売買契約書の各条項、特に特約事項第二条をとらえて、所有権移転登記の時に所有権を移転する旨の特約が存在したと主張するけれども、右各条項は、いずれも所有権移転の時期について定めたものと解することはできない。確かに、特約事項第二条には、「所有権移転の際………」とあるが、この条項は、前記認定のとおり、建物収去の責任の所在を明確にする趣旨の規定であると認められ、むしろ、この条項の重点は「甲は上物を除去し……」の部分にあるのであつて、「所有権移転の際」の文言は、所有権の移転時期を意識的に限定したというよりは、所有権が移転したときは当然に上物除去義務が生ずるといつた程度の趣旨で使用しているにすぎないと解するのが穏当である。本件のように転売があらかじめ予定されている土地について、もし、所有権移転登記をするまでは所有権を移転しないとの合意があると解するときは、原告は、いまだ所有権を取得していない本件土地をそのまま東武鉄道に転売したということになり、また、本件においては、結局、蒲生住宅らから直接東武鉄道に対し所有権移転登記が経由されており、原告は、一度も本登記の所有名義人となることなしに終つているから、原告には一度も所有権が移転していないか、もしくは東武鉄道の所有権移転登記の際、瞬間的に所有権を取得し、かつ喪失したということになるが、このように考えるのは、土地売買における一般人の通常の感覚とあまりに遊離し、かえつて不自然であるといわなければならない。

したがつて、被告の特約の主張は、採用することができない。

四  以上のとおり、原告が本件土地の所有権を取得した日は昭和四七年九月六日であり、したがつて、その取得は、特別土地保有税の課税対象とはならないから、これに反する本件決定は、違法であるといわなければならない。

五  よつて、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本攻 一宮なほみ 並木正男)

目録<省略>

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